ストリートシーンにおいて他の追随を許さない長谷川 篤に迫る。
記録を残す事に生きる男の信念を探るインタビュー。

Interview & Photo(Portrait) by VHSSNOW 
Special thanks: Flux Binding

PROLOGUE

 『人間一生誠に纔(わづか)の事なり。好いたことをして暮すべきなり。夢の間の世の中に、すかぬ事ばかりして苦を見て暮すは愚なることなり』これは江戸時代中期に肥前国佐賀鍋島藩士の山本常朝が武士としての心得を口述したものを筆録した “葉隠” という書物からの引用である。意味としてはこんな感じだ。「人間の一生なんて本当に短いものだ。だから好きなことをして暮らすがいい。夢のように儚く過ぎるこの浮世で、好きでもないことをして苦しい思いをして暮らすのは馬鹿げている」
 長谷川 篤という男はまさにこの言葉の通りの、清々しく誰もが羨むほどの生き様を体現している。好きなスノーボードのために苦労や努力を惜しまない。自分にも他人にもヒリヒリするほど厳しい上に、年齢を重ねる度に自分に対する厳しさは増しているという。ストリートでの活動を主戦場とし、ロケーションのスケールやトリックチョイスのレベルは間違いなく国内トップクラス。ライダーですら一目を置く稀有な男、長谷川 篤の芯を貫く信念を聞く。

Photo by Ryan Hughes

空白の1年を経て撮影した2015年に公開されたフルパート。

VHSSNOW 早速だけど、アツシがシーズンのすべてを撮影に懸けようと思ったのはいつから?

長谷川 篤 2012年に出たHotdogg Filmsの『Stay Real』の時。それまでは大会に出たり、撮影したりってしてたけど、その年は本当に撮影しかしなかった。その時に「こういうシーズンの使い方がいちばん楽しいじゃん」って思ったし、確かに充実してたと思う。

でもHotdoggはその年に解散してしまった。

そう、だからその次のシーズンは何をしていいか分からなくて、実際何もすることがなかった。

その状態から撮影を復活したのは?

とにかく撮影できればいいと思って始めた。「1年撮ってサンプルを作ってちゃんと撮影できる為の活動費が集まったらしっかり撮影しようよ」ってまーちゃん(フィルマー)と話して決めた。オレはただ撮影ができればそれで良かったけど、オレだけの理由でやってもらうワケにもいかなかったし、撮影は1人でできるものじゃない。天井はないけど納得して貰えるクォリティを残して、集中して撮影に向かう為にレベルが高いフッテージを残す事がお互いのゴールであのフルパートだった。

フルパートの撮影を始めるまでの空白の1年はどういう心境だった?

空白だった分、余計にもっと撮影したいって思った。それまで何シーズンも当たり前に撮影してた年が繰り返されてて、やっと最後の年に自分がやりたくて撮影してた『Stay Real』の2年があって、それがいきなりスパっとなくなった。当たり前だけど、そういう環境がいきなり無くなると面白くなかった。

空白の1年を経て撮影した2015年に公開されたフルパート。

あのフルパートが出て、その次っていうのは考えてた?

何も考えてなかった。2年を掛けたあのフルパートももう1回できるとも思ってなかったし。そんな時にArborの本国から連絡来て、2年掛けて撮影するプロジェクトの誘いがあった。

来た!! って感じ?

来たっていうよりも撮影する理由ができたって感じ。フルパートをやってたのもあって、今更だけど横のつながりも増えてきて、いろんな土地に行っても撮影できる環境が整ってきてた。それもあって、日本のいろんなところで撮影できるなっていうのはイメージできた。

ちなみにそれまでの自分のパートについてはどう思ってる?

自分の映像を観てがっかりすることの方が多かった。撮影してる時は時間掛けてロケハンして見つけたらセッティングして、何度もトライしてやっとメイクした1本っていうのもあるからその場ではイェイって感じになる。でも何ヵ月後かにフラットな状態で観ると「全然イェイじゃない」っていうのがよくある。それを今シーズン、改めて感じた。

それはどういう意味で?

単純に完成度が。映像って最終的にはドライな状態で観るのが当たり前。だから現場ではいいと思っても、妥協すると後々後悔して嫌な思いをするんだよね。そういう映像を観ると凄いショックだけど、絶対やり直しはできない。雪があるならまた行くけど、雪がなくなるとそれもできない。

その考え方に行き着いた理由は、自分の求める完成度が見えるようになったから?

どうかな。オレはライダーならみんなそうだと思うんだけど、自分自身メイクったら気持ちいいじゃん? 完成度低かろうとメイクできたらうれしいけど、それをいかに客観視できるか。自分の滑りを厳しく見る目っていうか。その場の気持ち良さは間違いなくあるから、流されずにやるのが難しい。でも今は後で後悔したくない気持ちが強い。

“誰もが簡単にはできないところで誰もができるようなトリックを簡単にやる”

Photo by Taro Koeji

じゃあトリック、スポット、ラインでアツシを高ぶらせるスポットは?

シンプルなレールでどんだけ出せるかってところかな。「シンプルでデカい」とか「長い」とか。ゲレンデ滑ってイェイイェイやってるよりは、バックカントリーとかストリートみたいに誰もが簡単にはできないところで、誰もができるようなトリックを簡単にやるっていうことがやっぱ凄いじゃん。

Photo by Ryan Hughes

では、撮影に臨む時ってどうやってトリックをイメージしてる?

イメージっていうか、スノーボードの技って正直もう出切ってる。新しいトリックが出ることは無くて、新しいレベルが出るだけ。スピンインの回転数が増えるとか、そのレベル。技はもう出切ってるから、あとはどう組み合わせるかだけの話。スポット行って「このレールでなにしますか?」って自分に問われて、あーどれにしようかなってイメージして、これができるかできないかっていう話。その上で、それぞれの技にポイントがあって、こっちが1ポイント高いけどできない! みたいな。このスポットでは「すでに何点の技がもう出てるよ」とか。じゃあ何点以上狙わないといけないって。本当はみんなファースト(誰もやっていないスポット)でやりたいと思うけど、そんな場所は多くはない。だからファーストじゃないならスポットをトリックでオーバーしていくしかない。

その話で言えば、アツシはABDについてどう思う?(ABD = Already Been Done/完了済。つまり誰かが既にその技をメイクしているという意味)

どうっていうか当たり前だよね。先シーズン、カナダでやったArborの撮影の時も、トリップで「何年前に誰々があの技した。何年前に誰々がこの技した」なんて、スポットを巡る時も移動中にみんなが話してた。それを見て同じ場所で誰が何をメイクしているかを重視するのは日本でも海外でも同じじゃんって思った。

だけどライダーの中には、そのスポットで前に誰かがやったトリックでも関係ないっていう人もいるよね。

そういうのはいる。前に何の技をやったか分かった上でやるのは恥ずかしくてカッコ悪い。そんなことして自分の株をわざわざ下げる必要ない。だったらやらない方が株は下がらない。だけど場所によっては、前に誰かがやった技が分からない時もある。そういう時はしょうがない。

“誰もやったことのないスポットでファーストで記録を刻んで欲しい”

Photo by ZIZO=KAZU

じゃあスノーボードをやってきて良かったなと思う瞬間は?

つねに思ってるよ。だって好きなことだもん。どんなに小さなスキー場だろうがなんだろうが滑ってて楽しいから。スノーボードはオレが好きでやってること。トリックがメイクできたらうれしいし、行き帰りの車も楽しい。しかも最近マジで上手くなってる。できなかった技が毎年できるようになってる。例えばスイッチのヒール抜けの最後の最後のエッジの数センチの使い方とか。

なんか楽しそうだね。最後にキッズたちに何かメッセージはある?

難しいなぁ。しいて言うなら「向上心を持って」ってことくらいかな。やり尽くされたスポットを巡ってトリックを更新するよりも、誰もやったことのないスポットでファーストで記録を刻んで欲しいね。

長谷川 篤Atsushi Hasegawa

圧倒的なスキルと抜群のトリックセンスを武器に、映像と写真にこだわり続けている。国内のみならず海外からも高い評価を得た事は記憶に新しい。

生年月日: 1988年7月13日

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