48H #02

 
 初滑りを、何か意味あるものにしたくて。
 2016年11月23日(水)深夜から関東では雪となり、翌24日(木)にかけて都心を含む広い範囲で積雪。東京都心で11月の雪の観測は、1962年以来54年ぶり、積雪の観測は、史上初とのこと。この降雪により、いくつかのゲレンデがオープンとなったが、人混みに溢れたゲレンデで、記念すべきファーストターンを刻むことに少し不満を抱いていた。僕たちは、今年の夏から計画を立てていた。本サイトである『VHSSNOW』のディレクターである“Yas”こと分部康仁と、11月中旬のシーズンインを立山でテントキャンプをし、いくつかの斜面を滑るための準備を進めていた。今年8月に立山で4日間のキャンプを行い、登山をしながら夏山の斜面の状況を確認し、滑る斜面のイメージを膨らましていた。春に滑った斜面と夏山の斜面の“答え合わせ”も楽しいものだ。

 10月になり、ギアやキャンプ道具の準備、工程やルートの確認、ロープワーク、セルフレスキューなど、心と体の準備は整っていたが、立山のコンディションは良くはならず、11月最終週まで様子を窺っていたが、今回のトリップをあきらめることにした。残念ではあるが、自然に逆らうことはできない。このモヤモヤ感……。どうにかしないと……。すぐに膿を出さなければ、病気になりそうだ……。

 11月24日(木)夜。
Sakai「もしもし~。雪降ったね~」。
Yas「いや~~、降りましたね~。どこか滑りにいきましょ~よ~!」
Sakai「だね~。いこいこ。せっかく準備もできてるし、キャンプスノーボードしようよ!」
Yas「間違いない! やりましょう!!」

 シーズンインの記念すべきファーストターンは、人工雪で混み合った斜面ではなく、静かな山で、自然の恵みを感じ、山の神様に感謝したいものである。

 11月25日(金)。とある山の写真を見ると20cm程の積雪があり、斜面一面が完全に雪に覆われいた。さらにそこから標高をあげれば雪の量も多いはず。これならなんとか滑れそうだ。11月26日(土)早朝4:00。駒沢でYasをピックアップし山へ向かった。車内では、初滑りへの期待がどんどんと膨らんでいく。膿は破裂寸前だ。約3時間のドライブはかなり長く感じたが、ようやく山の麓に到着した。気温は低く、雪のコンディションも良さそうだ。狙っていた斜面の目の前まで車で上がっていく。そして到着、目の前には……。草原が広がっていた。雪は完全に溶けていたのだ。「嘘でしょ?」僕たちは顔を見合わせた。車でのあの高揚感は一気に冷め、破裂寸前の膿は萎んでしまった。冷たい北風を受けながら、僕らはしばらく立ちすくんだ。記念すべきファーストターンは、刻めないのか……。

Sakai「よし。もっと北へいこう」。
Yas「ですね」。
 人混みに溢れたゲレンデを滑るしかないのかと一瞬頭をよぎったが、この膿を出すには、天然雪の静かな山を滑るしか方法はないのだ。そこから、さらに40分程車を走らせ、奥深いゲレンデに到着した。営業前のゲレンデは、一面真っ白な天然雪に覆われていた。自然に笑いが込み上げてくる。ようやくここまで来れた。朝飯前に、まずは雪板だ!

 斜面には、脛くらいまで新雪が積もっており、雪のコンディションも悪くはない。20分程ハイクアップし、良さげなところで呼吸を整える。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。やっぱり静かな雪山は最高だ。リーシュコードを結び……。

『ドロップイン』
 雪板の、この足裏の、この感覚。懐かしく、気持ちが良い。少しづつ加速し、雪板の緩いターンを楽しみながら麓へ滑り降りた。ようやく膿が出たようだ。最高のロケーションで、ドリップコーヒーにフランスパン、ソーセージにキャベツ、ニンジン、ジャガイモのポトフ、のんびり朝飯だ。ここには2人しかいない。慌てる必要もない。腹がいっぱいになったところで、スノーボードの準備をしピークを目指すことに。途中、カモシカの親子に遭遇。僕たちのほうをじっとみている。「まだスキー場がオープンしていないのに、あいつらは何やっているんだ。うるさいやつらだ」と言っているかのように。「カモシカさん、ごめんよ。お邪魔します」と声を掛けると、親子は林の中へ消えていった。

 約1時間半でピークに到着。遠くには白く覆われた新潟の山々が良く見える。Yasにファーストを譲り、ドロップイン。手前のコブを綺麗にオーリーし、ターンを繋げていく……。と3ターン目に入った瞬間、Yasが大きくコケた。どうしたんだ? 自分も滑りだしてみると、雪の下には太い茎の植物たちが斜面全体に潜んでいたのだ。ターンするたびに、その太い茎に板が引っかかりうまく滑れない。さらにコケると雪が浅いため直接地面に接触し、かなり痛い。30分かけ“地獄の斜面”をなんとか下山した。ソールはズタボロだ。疲労と満足感と後悔と、複雑な気持ちのまま、記念すべき初滑りは達成できたのである。

 今回の初滑りトリップのテーマは、キャンプ&スノーボード。熊と混浴できると噂の温泉をメイクし、キャンプの準備を始める。Yas特製の“VHSケイジャンチキン”は最高だった。焚火を見つめながら気持ちの良い時間が過ぎていく。「おやすみなさい」。

 翌朝、強風にテントを叩かれ起床。早朝から散歩をしているローカルのおじちゃん、おばちゃんたちが声をかけてくれる。
「寒くなかったべか~?」
「あそこに足湯あっから入っていけ~~」。
「テントで寝たのか?楽しそうだな~」。
 みんながやさしく声をかけてくれる。さあ、今日はどこを滑るか。

 更に東へ車を走らせ標高を上げていくと、良さげな斜面が見えてきた。昨日より雪の量は多そうだ。路肩に車をデポし、1時間程ハイクする。斜度も距離もよさそうだ。ここも静かで、冬の空気を感じることができた。今日こそ気持ち良いターンができそうだ。

 静かな山で、自然のサイクルを感じ、スノーボードをする。初滑りを何か意味のあるものにしたかった。僕たちのシーズンインの『48時間』は、思い出に残るファーストターンになったことは間違いないだろう。

takamitsu_sakai酒井隆光 / TAKAMITSU SAKAI Facebook Instagram酒井隆光
TAKAMITSU SAKAI

神奈川県在住、山をこよなく愛するスノーボーダー。またスノーボードの臨場感溢れるライディング写真とクラフトアートで楽しさを表現し、アートやカルチャーを発信し続けるフリーマガジン「DEZZERT magazine」の編集人もつとめる。

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