48H #01

 
 家から最寄駅までは徒歩15分。老舗が並ぶ商店街を抜け、ここ数年で現れた巨大な商業施設とタワーマンションの間の小道を通り抜けると最寄駅に到着する。夏場は駅に着くまでほぼ日陰はなく、アスファルトの照り返しの熱を猛烈に煽りながら歩いていく。ラッシュアワーの改札口を通過するのに20~30mの行列ができている。駅のホームに着いたころには全身から汗が流れ出し、シャツはズブヌレ。ホームに到着した車輛は、通勤のサラリーマンで満員。車内は二日酔いの酒臭さとオヤジ臭で酸欠状態。会社に到着したときには、すでに疲労困憊。一日の始まりとは思えないほどの脱力ぶりだ。これが月曜日から金曜日まで毎日繰り返される。

 僕は東京で働く、いたって普通のサラリーマンである。
会社の組織のごく小さな歯車の一つ。ハードな業務とややこしい人間関係、過酷な交渉と、毎日大きなストレスを感じながら戦っている。僕にとってスノーボードは、『自分が生きているということを実感できる場所、そして時間』である。少し大袈裟かもしれないが、本当にそう思っている。年々スノーボードが楽しくなっている。冬になると常に天気が気になり、週末が待ち遠しい。冬の通勤電車の車内、頭の中は完全に山へトリップ状態だ。

 シーズン初めの金曜日、いつものようにNicoへ電話。“Nico” こと大滝真司は、前職『greenroom inc.』の先輩。僕のスノーボードの師匠であり、山の先生であり、ビール仲間であり、友達である。僕が山で絶対的な信頼をおける数少ない人間だ。彼もまたサラリーマン。僕の知るなかで、ダントツにスノーボードのうまいサラリーマンであることは間違いないだろう。

Sakai「もしも~し。来てますね~、寒波! 今週末も良さそうですね~。」
Nico「来てるね~~。雪、いいんじゃない。ちょっと風が残りそうだね。」
Sakai「風が抜けたらあそこ。抜けなかったらあそこに移動ですね。」
Nico「そうだね。」
Sakai「じゃあ、朝いつものところで。」
Nico「了解!」

金曜の夜に僕らが交わすいつもの会話だ。

 朝、予定していたゲレンデは予想通り風の影響でクローズ。保険をかけていたゲレンデに移動すると、最高のコンディションに仕上がっていた。気温は低く、ドライパウダーが一面を覆っている。コース内は新雪30cm。林の中は40~50cmってところだ。朝一のクワッドリフトにはパウダージャンキーが列をなしている。どこかで見たことのある顔ぶれと板が並んでいる。スキモノたちの考えることはみんな一緒だ。リフト開始から、トップ to ボトムでパウダーをいただく。足裏でしっかりと雪質が感じながら、ソールとエッジが気持ち良くパウダーを捉えているのが分かる。大きな沢状のコースの壁には上質な雪が張り付いていてる。壁天国。パウダーライドを満喫だ。

リフトに乗っているNicoが辺りをキョロキョロ探っている。
Nico「あの林、なんか匂うな。クンクン。」

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そこには、完璧なコンディションの小さな沢があった。斜度、ツリーの間隔、雪の状態も素晴らしく、自然と顔が緩みヨダレが垂れる。Nicoドロップイン! 美しい弧を描き、粉雪に包まれていく。

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Sakai「この林、最高だね!」
Nico「まだこっちの沢は残ってるよ。」
Sakai「え、マジ!?」
Nico「あれ?この下の沢もまだあるよ。」
Sakai「ママママ、マジ!??」
Nico「いくらでもあるね~。」
Sakai「たまらんね~。」
最高の沢はいくらでもある。笑いが止まらない。

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気が付けば、僕たちは何本滑ったか分からないくらい滑り尽くしていた。

Sakai「なんか暗くなってきたね。」
Nico「日が暮れるまでやったね~。」
Sakai「スキモノだね~。」

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シツコイ男たち。これだからスノーボードはやめられない。

 いつもの温泉から無料の町営駐車場にピットインし、お気に入りのピザ屋へGo。マルゲリータとビール。Nicoはスプレーの上げっぷりも豪快だが、ビールの飲みっぷりもこれまた豪快だ。あの沢をツマミに底ナシにビールが進む。良い滑りができた日は、スノーボードの会話は尽きない。車中泊の準備をし、Nicoの車中で二次会ビール。明日もまたパウダーの予報だ。最高のパウダーライドを夢見ながら、「おやすみなさい。」

 僕たちのように、都心や街に住むサラリーマン・スノーボーダーは大勢いるだろう。平日は仕事に溺れ、土日に山へ向かう人たち。スノーボードの楽しみ方も千差万別だが、その日、一本でも気持ちの良いターンができただけでも幸福な気持ちになれる。みんなスノーボードを通じて、幸福感、自然や命の大切さ、友の有難さを感じているに違いない。日々のストレスから、心もカラダもトリップさせ、スノーボードを精一杯楽しむしかない。

そう、僕たちの生きる時間は、週末の48時間しかないのだから。

takamitsu_sakai酒井隆光 / TAKAMITSU SAKAI Facebook Instagram酒井隆光
TAKAMITSU SAKAI

神奈川県在住、山をこよなく愛するスノーボーダー。またスノーボードの臨場感溢れるライディング写真とクラフトアートで楽しさを表現し、アートやカルチャーを発信し続けるフリーマガジン「DEZZERT magazine」の編集人もつとめる。

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