スノーボードは脱法ドラッグなのか?

 Brocken-Gです。1回目のコラムを読んで頂いた方のなかで「で、結局こいつ誰やねん」という率直な感想をお持ちの方もおられるでしょう。いいのいいの。気にしないでください。本名で名乗るほどの者でもないし、わからないくらいが面白いことだってあります。

 さて、今回は「バックカントリー」の話です。アルピニストでもなければジェレミー・ジョーンズほどの山の知識もない自分が、このことについて書くのも差し出がましいのですが、あくまで一般目線に近いスノーボーダーとして書きたいと思います。バックカントリーといえば最近ではテレビのニュース番組にも登場するワード。悪気があるのかないのか「バックカントリーの世界に足を踏み入れるスノーボーダーが後を絶たない」とか言われて、「それじゃ脱法ドラッグみたいじゃねーか!」とツッコミをいれたくなることもしばしば。そういった報道ではバックカントリーの楽しさや素晴らしさは伝わらず(伝えず)おもにリスクや危険性の話が登場する。それを見た視聴者の方は「なんでそんな危ない場所に自ら足を踏み入れるんだ? 救助費用の一部は税金から出てるの?」となってしまうわけで。

 まず、バックカントリーとはなんなんだって話ですが、バックカントリーとはスキー場とは関係のない「その辺の雪山」。よく報道に取り上げられる危険性については、かなり危険な状況もありうる場所ということは間違いない。普段の生活よりは「死」に一歩近づいていると言えます。ひとつ目の危険性は雪崩。体が50cmも埋まれば身動きがとれず、顔が埋まれば窒息します。ふたつ目は遭難。バックカントリーには青看板もなければ交番もなく、土地勘や読図スキルが必要になります。山は天候が変わりやすく、ホワイトアウト状態になれば一瞬でどこにいるのかわからなくなることも。三つ目は怪我です。歩けないとなるとゴルゴ13並の超人でなければ、助けてもらわないと人里に戻れません。怪我なく滑り降りたら30分で車の通る道路まで出れるのに、歩けないとなると仲間の助けを借りても数時間~数日はかかることもありえる。軽装備で山に入り動けなくなると、低体温症で命を落とすケースもあります。そんな状況になって出動するのがヘリ。救助費用は現場の自治体の条例や救助体制によりけりだが、数百万円になるケースも。救助作業をする人たちも命がけの作業になるし、関係者や自分の家族に多大な迷惑を掛けることになってしまいます。知識、保険、覚悟、必要なことは山ほどあります。

 ここまで聞いたら「いや、だからなんでそんなに危ない場所に自ら足を踏み入れるんだ?」と、なおさら思うかもしれない。まず、スキー場と何が違うのか? スキー場内のコースやパークは、いわばサービスです。「リフト券を買っていただいたので、どうぞ私たちが管理したところを滑ってください。パークのジャンプは順番通りにまっすぐ入っていただき、ジャンプの先には着地用の斜面をご用意しております。おひとりづつどうぞ」という状態。パークでは他人に用意されたセクションを用意されたラインで滑るのがいちばん調子が良かったりするもの(それも最高に楽しいし、トリックのスキルアップへの近道でもあることは間違いない)。

 しかし、スキー場の外に出れば、起きたことは100%自己責任。最低限の装備(ビーコン・プローブ・スコップ)の使い方は覚えて、なにかあったときに信用できる仲間(もしくはガイドさん)と山に入るのは大前提です。キックアウトもなく監視する人間もいないので、自分に向き合い、創意工夫を凝らして手つかずの自然地形を滑ることができる。「あそこをこう行ってこう行ったらヤバいね」とか、「あの岩を飛び降りたらかっこいいな」とかワイワイ言いながら。それはまるで子供の頃に誰もが抱いた、ジャングルジムから飛び降りたらかっけー、みたいな感覚をいい年こいてもやっているようなもの。だけど、狙い通りに滑れることは1シーズンで数回しか味わえない。そんなふうに雪山に向かい合うと、他人の管理が行き届いたスキー場ではできたことが、自然の雪山ではできないちっぽけな自分に気づかされて、燃えちゃうわけです。

 バックカントリーというフィールドは自分のアイディアや妄想を形にする場所はいくらでもあって、必要なのは自分のスキルと経験のみ。というすごくシンプルな世界。だからこそ目標は尽きず何年もどハマりしてしまう。コンディションとはつねに一期一会の自然の世界で、最高の雪を自分の満足いくロングラインを滑れちゃったりしたらそれだけで3年はスノーボードしていけそうなくらい、病みつきになる。脳内麻薬がドパッっと出ちゃってね~。次の寒波も仕事休んで滑り行っちゃうか~。たまんないね~やめらんね~。結局テレビのオジさんたちが言ってる脱法ドラッグと一緒じゃねーか。っつってね。

 


「静寂…興奮…ソウルに入る…ハピネス。これが自分の通勤路。板を履いて勤務開始。」と言い残し、バックカントリーの森に入っていくシーンから始まるニコラス・ミューラーのNike Snowboarding 『Never Not』からのフルパート。

 


リビングレジェンズ、ジェイミー・リン、ブライアン・イグチによるアラスカでのライディング。ターンだけでイワすことのできる両氏の滑りがガッチリ収録。

 


加治秀之によるTop To Bottomのラン。トーキョー直近のビッグマウンテン、谷川岳BCのロングライン。トップからボトムにかけて徐々に変わっていく雪質、風の音など緊張感のある一本を疑似体験できます。

BROCKEN-GBROCKEN-GBROCKEN-G

日本出身の旅人。長年の放浪の末、2016年帰国。元プロスノーボーダー、普通のスノーボーダー、季節労働者、Sushi職人、あのよく酒を奢ってくれる人、あのよく酒をせびってくる人、BBQ番長などなど…人が彼を形容する言葉は多くあるがVHSSNOW上での肩書きはコラムニスト。

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